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オーガニック志向の消費者:米国における2016年のオーガニック食品の売上高は、470億ドルとなっている。ＧＭ食品はオーガニックと名乗れないので、オーガニック食品は「ＧＭ 食品ではない」と判断できる。米国農務省 (USDA)は、オーガニック食品について農薬、化学肥料、ＧＭ作物を使用しないという基準を設定している。このような4条件をクリアした商品に ついて、「USDAオーガニック」のマークをつけて販売することが認められている。オーガニックのラベルが商品についていれば、ＧＭ作物が含まれていないことが消費者にも分かる。米国の 食品メーカーのホールフーズは、自然食品や健康食品を中心にして急成長を遂げてきた。しかし、販売競争の激化のために2018年にアマゾンの傘下に入った。
米国では、オーガニックのトウモロコシや大豆の需要の高まりを受け、これらを他国からの輸入に頼るという事態になっている。オーガニック作物の不足は特に大豆で深刻で、2016年には 8割を輸入に頼ったという。ＧＭ作物の栽培からノンＧＭ作物に切り替えるのは大変な負担になるという。最低3年の移行期間が必要といわれる。
ＧＭ作物の安全性ＧＭ作物の安全性については、全米科学アカデミー、全米技術アカデミー、米国医学研究所から構成された委員会が「ＧＭ食品を食べることでヒトの健康に 悪影響が出るとの証拠は得られなかった」との報告書を公表している。また、「ＧＭ作物の普及により農業生産性が向上したとは認められない」としている。実際に、ＧＭ作物が導入されて から米国では収穫量の増加ペースが向上したことは認められていない。さらに、ＧＭ作物導入後に作物の反収増加は確認されていない。
グリホサートの安全性WHOの専門組織である国際がん研究機関は2015年3月、「グリホサートはヒトに対しておそらく発がん性がある」と発表し波紋が広がっている。IARCは、ヒト での発がん性について最も強い「発がん性がある」（グループ1）から、「発がん性がない」（グループ4）の5段階に分類している。グリホサートは5段階の上から2番目のグループに分類 されている。しかし、世界中で広く使用されている除草剤に対してこのような判断が下されたことに対して見直しを求める声が上がっている。特に米国ではＧＭ作物の栽培が普及しており、 グリホサートの使用が欠かせない。米国の環境保護庁(EPA)は、グリホサートについて「ヒトに対して発がん性がない」と判断している。
抵抗性雑草一方、アメリカの農業現場ではグリホサートに対する抵抗性雑草の発生という大きな問題が起きている。グリホサートは本来非選択的な除草剤で、広範な種類の 植物を枯らす。当然、トウモロコシや大豆などもそのままではグリホサート処理で枯れてしまう。そこで、遺伝子組換えにより雑草だけを枯らして作物を残すようにしたのがＧＭ作物で ある。ところが、ＧＭ作物の畑に毎年グリホサートを処理することにより雑草がグリホサートに対して抵抗性を示すようになった。雑草のグリホサート抵抗性は次世代に引き継がれる。 従って、ＧＭ作物の畑では抵抗性雑草が年々増加してきた。グリホサートの効力が低下すれば、対策のための費用が増加し、農家の収益は悪化する。そこで、米国農務省はグリホサートの 使用量を減らし、他の除草剤を組み合わせて使用することを推奨している。しかし、問題点はグリホサートに関して代替除草剤が存在しないことである。
米国農務省は、グリホサート耐性雑草（スーパー雑草と呼ばれる）の出現を抑えるために、グリホサートの毎年使用を避けたり、他除草剤との併用を推奨している。また、米国雑草 学会は適切な対策を取らないと、トウモロコシの収量は52％、大豆の収量は49.5％も減るとしている。このような問題点が発生したので、グリホサートに依存してきたモンサント社は、 ジカンバ（有効成分2,4-D）にも耐性を示すＧＭトウモロコシとＧＭ大豆を開発し、除草剤グリホサートとジカンバとのセットで販売することで事態の打開を図った。グリホサートとジ カンバに耐性のトウモロコシと大豆に除草剤としてグリホサートとジカンバを散布することにより十分な除草が可能となり、スーパー雑草問題は解決したかに見えた。ところが、ジカンバ は揮発性のため、周辺の非ＧＭ畑に飛散して作物を枯らすというドリフト薬害問題が発生し、そのトラブルのために殺人事件まで発生したという。しかし、長年グリホサートを使用して きた農家は、グリホサートとジカンバの両方に耐性を示すトウモロコシと大豆の作付けを歓迎した。その後、この両除草剤に耐性を示す綿の商業栽培も承認された。
グリホサートとジカンバの混合剤は、エンリスト・ヂュオという商品名で売上げを伸ばした。ジカンバの関連化合物が以前ベトナム戦争で枯葉剤として使用されたことがあり、市民 団体などはエンリスト・ヂュオの販売に抗議し、農業団体との間で激しい訴訟合戦が繰り広げられている。ＥＰＡは、風が強い日にはエンリスト・ヂュオの散布を行わないこと、また 周囲には緩衝帶を設けるなどの措置をとることを条件にしてジカンバの使用を認めた。しかし、ジカンバ飛散による薬害はその後も各地で発生しているという。
出典：管 正治：「本当はダメなアメリカ農業」、新潮社（2018年6月発行）。