トピックス（148）

１９８４年、欧米では殺虫剤抵抗性対策委員会（Insecticide Resistance Action Committee、IRAC） が発足した。現在では、ＢＡＳＦ、バイエルクロップサイエンス、ダウアグロサイエンス、デユポン、ＦＭＣ、シンジェンタ、モンサント、 ケミノバ（海外）及び住友化学、日本農薬（日本）等の有力企業が会員となって、主として次のような活動を行っている。

IRAC自体は、Web上での情報提供が主な仕事で実務は、会員企業と各国の抵抗性対策委員会が行っているようである。 IRACが連携している各国・各地域の委員会は、米国、ブラジル、インド、オーストラリア、スペイン、南ア、東南アジアであり、日本では対策委員会 自体が組織されていない。

IRACでは、既存の殺虫剤・殺ダニ剤を作用機構別に分類して、同じ作用性の剤を繰り返して使用しないようにユーザー/ アドバイサー教育を行っている。この分類では、殺虫剤・殺ダニ剤を第１作用点に関し、２８のメイングループに分け、更にそれぞれを１〜５の サブグループに分けている。この分類法は中々示唆に富んでいるので、本ホームページでは今までに３回にわたって紹介し、現在日本で使用されている農薬 の代表例を各グループ毎に分類した（トピックス062、063、090：殺虫剤抵抗性について、その1〜その3）。

IRACでは、新規殺虫剤の上市や新しい作用機構の確定などに合わせて、分類表の改訂を行っている。今回は、最新版（バージョン6.0、2008年6月) に基づいて紹介する。以前のバージョンとは内容が若干異なっている。尚、IRACのリストには掲載されていないが、日本ではある程度の出荷額を挙げているものに関しては、 筆者の判断で分類表に挿入した。IRACでは、１ヶ国でも登録されている殺虫剤は収載する方針である。従って、DDT、ジコホール（ケルセン）のように日本では登録失効 となった殺虫剤もリストに含まれている。

この表から分かることは、殺虫剤の第１作用点は非常に多岐にわたっていることである。神経系に作用するグループだけでも ６種類ある。又、例えばピリプロキシフェン（7C)、ピメトロジン（9B）、フロニカミド（9C)、ブプロフェジン系（16）のように、同一サブグループ内 に該当する殺虫剤が今のところ1種類しか含まれないものもある。これらは、新規殺虫剤デザインに際して、重要なターゲットになり得る。反対に、 同一グループに属する剤が多い場合には、交差抵抗性が出る可能性が大きいので乱用の結果、共倒れになる恐れもある。ネオニコチノイド系（4A）， ベンゾイルウレア系（15）、ジアシルヒドラジン系（18A）、サイトＩ電子伝達系（21）などがこれに該当する。

そこで、IRACでは、同一サブグループに属する剤を多用しないで異なるサブグループの剤を交互に使うように指導している。又、 基本的には、生物農薬の使用や害虫抵抗性の作物を栽培したりして合成殺虫剤・殺ダニ剤の使用回数をなるべく減らすことも提唱している。ただ、作物 に対して使用できる農薬は法律で定められており、使用する側はその範囲から選ぶしかない。従って、企業や国は同じ作物群に対して作用機構の異なる 複数の殺虫剤を用意する必要がある。

尚、アグロサイエンス通信では、IRAC の分類に基づいて日本の殺虫剤市場の推移を辿った結果を報告している [ファインケミカル、37（9）16（2008）]。参考にして頂ければ幸いである。

（2008年9月1日）