トピックス（132）

米国農務省では、毎年3月にその年の作付け面積の予測を公表している。これは、全米86,000以上の農場主について3月の第1、2 週に調査した結果に基づいている。2007年の予測は表示の通りで、トウモロコシの作付けが急増しており、その反面ダイズ、ワタ、イネの作付けが減っ ている。コムギは漸増している。

2007年の作付け予定は、トウモロコシが前年より15％増の約90.5百万エーカーであり、ダイズは11％減の67百万エーカーで あった。ワタは、前年よりも20％も減少した。これは、1989年以来の低い水準といわれる。

トウモロコシの栽培面積が飛躍的に増加しているのは、エタノール製造原料としてトウモロコシの価格が急上昇しているから である。2007年、米国のトウモロコシ作付けは第2次大戦後の最大面積に達する見込みである。農家は、ワタ、ダイズ、イネの栽培からトウモロコ シに転換しつつある。又、遊休畑にトウモロコシを作付けし始めた。

米国内では、トウモロコシの作付け面積が最も大きいのはアイオワ州である。2007年、同州では13.9百万エーカーにトウモロコシ が作付けされた見込みである。これは前年よりも10.3％多い。アイオワ州だけでなく、マサチューセッツ州を除く全ての州でトウモロコシの作付け 面積が前年より増加したといわれる。3300エーカーの農場を持つテキサス州のある農家は、2006年にはその25％にトウモロコシを作付けしていたが、 2007年には40％に増やした。その反面、ワタの作付けを減らした。

農家にとっては、トウモロコシの植え付けを増やすにはリスクも伴う。トモロコシ栽培には毎週少なくとも１インチの降雨が 必要である。ワタの方が乾燥に耐えられる。それに、トウモロコシ栽培にはダイズやワタに比べてより多くのコストがかかる。トウモロコシは、 ダイズよりも多くの窒素肥料を必要とする。又、単位面積当たりの収穫物の貯蔵容積がダイズの約３倍なのでそれだけ貯蔵コスト、輸送コストが余計 かかる。石油の価格やトウモロコシの価格が下がることもリスク要因となる。トウモロコシの価格は今年２月中旬の時点で、１ブッシェル当たり4.35 ドルで１年前のほぼ２倍であった。それが３月になると１ブッシェル当たり3.58ドルに下落した。

米国でのエタノール生産量は、本年1月の時点で11.6百万バレルに達した。これは、１年前の30％増である。米国内では、約110 箇所のエタノール精製工場があるという。さらに、79箇所の工場が建設中である。

トウモロコシの価格上昇により、肉類、パン、ソフトドリンクなどの食料品も値上がりしている。トウモロコシの価格上昇は家畜 飼料の高騰を招き、畜産農家はより安価なソーガムなどを求めた結果、トウモロコシ以外の穀類の値段も上昇している。

トウモロコシの価格上昇により米国の農業生産額も伸長している。2007年度における農業生産額は約1354億ドルと予想されている。 これは、前年比311億ドル増に相当する。純農業所得は871億ドルで、前年比281億ドル増と見込まれている。これは、トウモロコシの価格上昇がその他の 作物や畜産品の価格も押し上げているからである。

トウモロコシ以外の作物では、ダイズの現金収入が前年比２６億ドルの増加が見込まれている。コムギでは、前年比２３億ドルアップ の見込みである。米国のコムギ輸出量は、2007年度には18％増加の見込みである。それでも世界のコムギ生産量は需要を下回っている。野菜やナッツ類 では、生産量が前年並みか前年をやや上回る見込みである。

このように、米国農業はトウモロコシの需要増に支えられて好調を保っているが、手放しで楽観できない面もある。それは、東部、 南東部、山岳市域では旱魃傾向の気象のため農作物栽培には不利な条件となっているからである。

作物栽培関連の支出も増えている。種子、肥料、農薬代の支出は2007年度で、373億ドル、前年比12％増と見込まれている。これは、 主に種子の価格が上昇したためで、特に種子用トウモロコシの価格が前年よりも12.7％もアップした。これに伴い、遺伝子組換えコーンの需要も増え、 その価格も上昇している。

肥料の価格も2007年度は前年比17％もアップし、153億ドルとなる見込みである。これは、窒素肥料製造に必要な天然ガスの価格が 上昇しているためである。畑作物に対する農薬の使用量は前年より１％増と予想されている。除草剤の使用量は、トウモロコシの作付け増加を反映して、 増加傾向にあるが、殺虫剤の使用量はワタの作付け減少に伴い減る見通しである。

このように、米国農業の中核を担うトウモロコシ栽培の活況が農業全体に大きな影響を及ぼしている。日本でも、コメを原料とする エタノール生産が試行されているが、現在の価格水準ではとてもトウモロコシ由来のエタノールには太刀打ちできないといわれる。しかし、革新的な栽培法、 あるいは画期的なエタノール製造法が見いだされてイネの栽培が活況を呈すれば日本の農業全体に大きな影響を及ぼすことになろう（2007年9月30日）。

主なソース：
1) USATODAY, http://www.usatoday.com/money/industries/2007-05-02-corn-cover-unsat_N.htm
2) Farm Income and Costs: 2007 Farm Sector Income Forecast, http://www.ers.usda.gov/Briefing/FarmIncome/nationalestimates.htm