トピックス（012）

害虫に抵抗性を持つ遺伝子組み換えトウモロコシ（Btコーン）は、大害虫のアワ ノメイガ(European corn borer)に有効な殺虫性タンパクを発現する。Btコーンを栽培する場合には、殺 虫剤の使用を通常より大幅に減らすことができるので米国での栽培面積は、2000年度で約20％に達した 模様である。モンサント社などの開発企業は、Btコーンは温血動物に対して安全であり、環境に対しても 悪影響を及ぼさないとして登録申請し、米環境保護局（EPA)は承認している。

ところが1999年、米国の研究グループが室内実験ではあるが、Btコーンの花粉を食 べたオオカバマダラ(Danaus plexippus)の幼虫死虫率が40%に達したと報告した。オオカバマダラは、北 米から南米の北部に生息する渡りチョウの1種で、カリフォルニア南部の越冬地では大群をなして樹木に 群がる。幼虫はトウワタ(milkweed)を食べるので、milkweed butterflyともいわれる。反遺伝子組み換え グループはこの発表に飛びつき、遺伝子組み換え作物（GM作物）の禁止を訴えた。そこで、米国やカナダ の数グループがEPAや農薬企業の資金援助を得て、室内テストと大規模圃場試験を実施した結果、以下の ような事実が明らかになった。
１）米国で最も多く栽培されているBtコーンの花粉は、オオカバマダ ラに対して毒性を示さなかった。
２）イベント176と呼ばれる遺伝子を持つBtコーン（商品名ノック アウト）の花粉だけが、オオカバマダラや近縁のクロアゲハに対して毒性を示した。幸いなことにこの商 品は、農家に不評で、全米の栽培面積は僅か2%に過ぎず、メーカーは市場からこの商品を引き上げている。
３）Btコーンは、夏期の2週間だけ花粉を飛散させるが、オオカバマダラは夏に数回産卵する。従って 多くの子チョウは、花粉と接触しない。
４）トウモロコシの花粉は、圃場内か圃場の極く近くに落下し、 遠方に飛散する割合は非常に少ない。従って、大部分のトウワタには、Btトウモロコシの花粉が付着して いる可能性は少ない。

以上のように、Btコーンのオオカバマダラに対するリスクは問題ないことが分かった。 しかし、もし「ノックアウト」が農家に人気があって大規模に栽培されていた場合には、状況が異なり大き な問題に発展していたかも知れない。この点は、EPAも認めているという。このストーリーは、新しいタイ プのGM作物を市場に出す場合には、環境に及ぼすリスクに関して細心の配慮が必要であることを我々に教え ている。（2002年1月31日）