ミニ解説（113)

21世紀の新農薬（21）−ピラクロストロビン−

ピラクロストロビン（商品名カルビオ）は、1993年にドイツBASF社により発見されたストロビルリン系の殺菌剤である。日本では 1999年より公的委託試験が実施され、2006年（平成18年）に果樹、野菜、ウリ類などの斑点性落葉病、黒斑病、べと病、うどんこ病などを対象として登録 された。現在、単剤（水和剤）が１剤、ニコチン酸アミド系の殺菌剤であるボスカリドとの混合剤（商品名ナリア）が４剤市販されている。混合剤は、 リンゴ、ナシ、オウトウの灰色かび病、菌核病の他に黒星病、うどん粉病などにも適用がある。

ピラクロストロビンの化学構造は図に示すように、ストロビルリン系殺菌剤の基本骨格にピラゾールエーテル側鎖が結合している。 この殺菌剤は、病原菌のミトコンドリア内にあるチトクローム電子伝達系を阻害して呼吸を妨げる。このため、菌の胞子発芽や菌糸伸長が妨げられて 菌は死に至る。本殺菌剤は、ストロビルリン系殺菌剤抵抗性菌を除き、他の殺菌剤抵抗性病原菌にも有効である。

ピラクロストロビンのラットに対する急性経口LD₅₀値は5000mg/kg以上であり、急性経皮LD₅₀値は2000mg/kg以上で ある。魚毒性は、コイに対するLC50(96h)が0.019ppmとやや強い。ミツバチや鳥類に対する毒性は低い。土壌中での半減期は、圃場条件で28〜100日である。